| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) E2-05
わが国における農薬のリスク管理は、定められた試験生物を用いた個体レベルの室内毒性試験に基づいて実施されており、実際の生態系からの乖離が問題視されている。そのため、野外において農薬の影響を分離・特定することが最善だと考えられているが、その手法は確立されていない。そこで本研究は、水生植物が分布する農業水路で調査を行い、除草剤の濃度と連動する植物の季節変化を指標として除草剤の影響を検出することを目的とした。
茨城県つくば市周辺域の農業水路に調査区(13地点)を設置し、2009年の水稲用除草剤が使用される前(4月)、除草剤濃度が最高値を示す直後(5月)、除草剤が検出されなくなる時期(7, 9月)に、出現種(藻類を除く)別の被度と水質(水位、流速、EC、pH)の調査を行った。また、同地点において4〜8月まで毎月1回(5, 6月は毎週1回)表層水を採取し、主要な水稲用除草剤であるスルホニルウレア系除草剤(5有効成分)の濃度をHPLC-MS/MSを用いて分析した。
調査区にはそれぞれ、沈水植物のエビモ、ササバモ、セキショウモ、抽水植物のマコモ、ヨシなどが優占していた。スルホニルウレア系除草剤は、全ての調査水路でいずれかの有効成分が検出され、5月中〜下旬に最高値を示した。この季節変化は、測定した水質4項目に比して5月に集中していた。水生植物のうち、除草剤濃度のピークと合致して被度の減少が見られたのは沈水植物であった。特にエビモの被度が最も大きく減少し、5月に地上部は消失したが、7月には地下茎からの出芽により再生した。一方、抽水植物では、7月以降の刈取り除草によって著しく被度が減少した調査区が多かった。これらの結果は、農業水路への水稲用除草剤の流入によって沈水植物が最もダメージを受けることを示唆する。