| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) E2-10

コイの行動性体温調節と環境水温の時空間的不均一性がコイヘルペスウイルス症の蔓延に与える影響について

*山中裕樹(龍谷大), 曽我部篤(広大), 大森浩二(愛媛大),源利文(地球研), 三木健(台湾大), 齋藤保久(釜山大), 内井喜美子(Univ. Blaise Pascal), 本庄三恵(地球研), 鈴木新(地球研), 神松幸弘(地球研), 川端善一郎(地球研)

コイヘルペスウイルス病(KHVD)は温度依存的に蔓延することが知られており、水温環境とコイの水温選択行動が大きく影響していると推察される。本研究では水温・水深センサを搭載したタグをコイに装着・放流し、ラジオテレメトリーにより行動性体温調節の1年間の履歴を調べ、水域内の水温データと合わせて解析した。結果、コイは26-28度程度の比較的高い水温を選好することが明らかになった。また、春と秋にはコイの選択水温が環境中の最高水温に近い値であったことから、これらの時期にはより高い水温を選択しようとするコイの水温選択行動が環境水温によって抑制されていた可能性がある。次にこれらのデータを用いてKHVDの感染症流行モデルを作成し、環境水温の時空間的不均一性(時間的な変化が大きい沿岸帯と、変化が小さい沖帯を仮定)とコイの水温選好性の有無がKHVDの流行に影響するかを数値実験により評価した。結果、野外で観察されるように春と秋に感染個体が多くなる状況を再現できた。温度選好性の有無によるコイの全個体数の違いはそれほど大きくない一方で、感染個体数には大きな差が生じうることが予測された。また、選好性が有る場合、沿岸域の面積が小さいときには春の感染ピークが大きく、沿岸域の面積が大きいときには小さい、そして沿岸域の面積が50%のときは選好性の有無による感染個体数の違いは小さくなることが予測された。KHVDが春と秋に蔓延するという現象には単にウイルスの活性が温度依存的である事に加え、コイの行動性体温調節にともなう負荷とその季節変化、及び生息域内の水温環境が影響していると考えられる。


日本生態学会