| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) I1-09

衛星追跡によるチュウヒの行動圏内部構造と渡り経路の解明

*中山文仁(自然環境研究センター),浦達也(日本野鳥の会)

チュウヒはレッドリストにおいて絶滅危惧IB類に指定されている希少な湿原性猛禽類である。推定番い数は50程度とされ、日本国内で繁殖する猛禽類では最も少ない種類の一つである。しかし、本種の基礎的な生態は未解明な部分が多く、繁殖期における行動圏やその内部構造、渡り経路、越冬様式はその一端が解明されているにすぎない。本研究は、国内で繁殖するチュウヒに衛星発信機を装着し、その行動を追跡したので報告する。

調査は北海道ウトナイ湖周辺の湿地で行った。チュウヒ雄成鳥を捕獲し、Argos衛星発信機を装着した後、行動を追跡した。行動圏の推定には固定カーネル法(Fixed Kernel)と最外郭法(Maximum Convex Polygon以下、MCP)を使用し,利用分布の95%を含む地域を推定した.その結果、繁殖期における行動圏は、MCP法を用いると5884ha、固定カーネル法を用いると1041haとなった。越冬期における行動圏は、MCP法を用いると36806ha、固定カーネル法を用いると4050haであった。繁殖期は営巣地と餌場と考えられる場所を往復するように行動し、特定の場所を数か所選好していた。越冬期も同様に、餌場とねぐらを往復し、その距離は往復30kmにも及んだ。

渡りは9月23日に開始し、ウトナイ湖から一気に海を横断、5時間後には本州に到達した。その後、奥羽山脈を南下し、宮城県伊豆沼を経由した後、太平洋沿岸地域を通り9月30日に茨城県霞ヶ浦の水田地帯に到達した。総移動距離は直線距離にして750km、要した日数は概ね7日であった。

チュウヒは広大な湿原の特定地域を集中して利用しており、その個体群保護のためには、面的な保全も重要であるが、局所的な選好環境を把握し、その保全を図ることも重要であると考えられた。

なお、本研究は三井物産環境基金からの助成により行われたものである。


日本生態学会