| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) I1-11
2004〜2009年までの毎年、8〜11月に北海道知床半島ルシャ地区でサケ科魚類(カラフトマス・シロザケ)を捕食するヒグマの行動を自動車の中から目視で観察した。調査域内にはサケ科魚類が海から遡上し、自然産卵で再生産している川が3本流れている。これらの河川は、河口部からサケ科魚類の産卵域となっている。そのため、産卵前の未熟な段階、産卵行動中の完熟した段階、産卵後の斃死を待つ段階の魚が河川内に混在しているという特徴がある。ここで、204日間にのべ約80頭のヒグマを個体識別し、行動を記録した。クマが食材にしたサケ科魚類は、生魚、死魚やその破片(斃死魚、動物が捕食した後の死骸、発酵・腐敗したもの、乾燥したもの)など多様であった。子を養育中の母とその子が2頭で1匹の魚、またはその一部を一緒に食べる場合以外は、単独で魚を食べる行為をおこなっていた。生魚を採捕した場合、基本的に、魚を食卓となる地点に運搬後、前足と口を使い、魚体をさばきながら食べていた。食べ残す確率が高い部位は、上顎、下顎、鰓蓋、胸鰭、舌、鰓、心臓、肝臓、胃腸、脾臓、浮袋、精巣など、硬い部位や卵を除いた内臓であった。これらは前足で頭部を押さえつけ、組織を歯で噛みちぎりながらさばいた場合にひとつながりで残せる部位に一致する。食事の姿勢は、基本的に立食、座食、伏食の3つに分けられた。捕獲した魚が、脂肪分の多い体色が銀白色で未熟な個体や完熟卵を抱えたメスである場合、食材を流失しないよう、また他のクマに干渉されないように特定の場所まで運搬し、座食、または伏食姿勢で食べる傾向があった。ヒグマが産卵後のメスや完熟したオスを捕獲した場合、捕獲直後にその魚を放流するなど食材として好ましくない魚を選別する多様な行為も記録した。これらのことから、ヒグマは生魚を捕獲した時点で食味を推定し、食べ方を決定する能力があることが示唆される。