| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) J1-02
近年,生物主導の環境改変が生態系の物質循環や生物群集の発達に影響を与えると考えられ,ニッチ構築(Odling-Smee et al. 2003),あるいは生態系エンジニアリング(Jones et al., 1994)として注目されている.ヤツメウナギ類はすべての種が幼生期に河床内で生活する原始的な脊椎動物であり,北半球のほぼ全域にわたる分布と膨大な生息数から,河川生態系に大きな影響を与える生物と考えられてきた (Hardisty and Potter 1971).最近になり,日本国内に生息するカワヤツメ幼生とスナヤツメ北方型幼生が,生息環境の状態を改変することが明らかとなった(2009年魚類学会発表).北海道において,本2種幼生は同一河川に生息することが多々見られる.もし2種幼生が同質の場所に生息するなら,単位面積当りのエンジニア効果は大きくなると予想されるが,2種幼生の種間関係について論じた報告は成されていない.もし2種幼生が競争関係にあるなら,野外において生息環境や餌資源に違いが認められるだろう.そのため本研究は,1)2種幼生の支流スケールでの分布,2)リーチ・マイクロハビタットスケールでの同所的な生息状態,3)生息地選択性,4)食物資源を調べることで,2種幼生の生態的特徴の類似性について議論した.調査地として北海道石狩川支流のオシラリカ川を選定し,2種幼生の採集と物理環境等を測定した.調査の結果,2種幼生は極めて近接した範囲で共存し,その分布域も支流スケールでは一致することが認められた.また統計解析と安定同位体分析から,2種幼生の生息地選択性と食物資源はほぼ同質と示された.これらのことから,野外における2種幼生の生態的特徴にほとんど違いがないことが明らかとなり,異なる種でありながら同質の生息環境にエンジニア効果を及ぼすと示唆された.