| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) J1-05
生物群集の構造を理解することは、群集の動態や成立・維持機構解明の鍵である。最近、食物網構造におけるパターンの一つとして、捕食者と被食者の体サイズ間の関係が注目を集めている。体サイズは、捕食・被食関係と強く関連するのみならず、生物個体の代謝速度と深い関わりを持つ。捕食者・被食者の体サイズ関係をめぐる研究の流れは、代謝理論に基づく個体群動態モデルと結びつくことで、食物網理論の飛躍的発展を促した。
生物を特徴づける重要な特徴に、情報処理や学習の能力がある。生物の学習や認知能力が種間相互作用や個体群動態におよぼす影響が示唆されてはいるものの、その一般性はよくわかっていないし、食物網構造との関わりはあまり知られていない。他方、脳の進化学的研究から、相対脳サイズ(log体サイズとlog脳サイズ間の線形回帰からの残差)と学習・認知能力の間に正の相関があることがわかっている。このことを念頭に、本研究では公開されている魚類データベース(FishBase)と論文データから、277種の魚における623の捕食者-被食者ペアでの相対脳サイズの関係を解析した。この解析の結果、以下の結果が得られた:(1)被食者の相対脳サイズは捕食者の相対脳サイズよりも大きい場合が多い;(2)被食者の相対脳サイズと捕食者の相対脳サイズの間に正の相関がある;(3)捕食者の体サイズが大きいほど被食者の脳サイズが大きい傾向がある。これらの結果から、学習・認知能力が捕食者-被食者関係とどのように関わっているのかを議論し、今後の研究の方向性を検討する。