| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) J1-09

千曲川中流域における繁殖鳥類の11年間の変化

*笠原里恵(東大・緑実), 加藤和弘(東大・緑実), 中村浩志(信州大・教育)

長野県を流れる千曲川の中流域に調査地を設定し、繁殖が確認された鳥類の種とその繁殖数について1997年から2007年まで11年間の調査を行った。この調査期間の初期である1998年、1999年に対象地域において記録的な増水が生じ、河川環境が大きく改変された。また1999年以降も2007年まで断続的に増水が生じ、そのつど河川環境には変化が見られた。本研究では、調査期間中に繁殖鳥類がどのように変化してきたかを増水の発生ならびにその結果生じた植生変化と関連付けながら明らかにすることを目的とした。

調査期間を通して繁殖鳥類の種組成には変化が確認された。水域では1998年と1999年の増水の発生後にイカルチドリやヤマセミといった砂礫地や崖を利用して繁殖する種の新たな繁殖が確認されたほか、水域を利用する鳥類の繁殖数は調査期間を通して増加する傾向が見られた。また陸域の河畔林では2002年以降に森林性の鳥類であるコサメビタキやキビタキといった種の繁殖が断続的もしくは継続的に確認されるようになった。その一方で、河畔林の林縁部や水域とのエコトーンで繁殖するモズやオオヨシキリの繁殖密度は調査期間を通して減少する傾向が見られた。

河川における増水の発生は水域を利用する鳥類に適した環境を提供、拡大させることでこれらの種の繁殖数の増加や維持に貢献したと考えられるが、河畔林の発達は発生した増水が河畔林に影響を及ぼす規模ではなかったことを意味している。水域と河畔林の拡大は中間にあるエコトーンを縮小させ、そこで繁殖する種に負の影響をもたらしたと考えられる。頻繁に増水が生じる河川においてエコトーンを利用する種の生息環境が拡大もしくは維持されるためには、河畔林に対する人為的な管理もある程度必要であるかもしれない。


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