| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) J2-10
フナ類の無性型は多数のクローン系列が同所的に存在する。ところが、ニッチの近い集団間では強い競争排除が起こるという観点から考えると、クローンの系列が多様であることは不思議である。今回、無性型のクローン系列の起源と維持について説明ができそうなことが分かってきた。一般にフナ類は有性型(二倍体)と無性型(三倍体)が同所的に共存している。有性型にはオスもメスもいるが、無性型にはメスしかいない。無性型はすべてメスであり三倍体のクローナルな配偶子を作るが、有性型のオスの精子が発生の制約として必要である。通常は、オスの精子は遺伝的に貢献せず、無性型個体からはクローンの娘が生まれてくる。ところが、稀にオスの精子が無性型の卵に受精して四倍体が生じることがある。実際、野外にもごく稀に四倍体の個体が存在し、四倍体にはオスとメスがいる。交配実験と配偶子の倍数性の測定から、四倍体メスは四倍体の配偶子を作る無性生殖を行い、四倍体オスは二倍体量の倍数性の配偶子を作ることがわかった。さらに、四倍体オスと二倍体メスを交配させると三倍体の個体が生じることがわかった。こうして生じた遺伝的に多様な三倍体個体には無性個体も含まれると考えられ、稀な四倍体と通常の二倍体の交配から新たなクローン系列が生じている可能性がある。また、稀に野外に三倍体のオスもいるが、その配偶子の倍数性は平均では1.5倍量であった。この配偶子は異数性である可能性が高い。三倍体オスと二倍体メスを交配すると、様々な倍数性の個体が生まれたが、二倍体も含まれた。この二倍体が有性型であれば、無性集団から有性集団への遺伝的な交流が起こる。フナ類の無性生殖は進化的なデッドエンドではないことを示唆している。