| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-006
チクゴスズメノヒエ(Paspalum distichum L. var. indutum)は北米南部を原産とするイネ科の水生植物であり、水域に侵入すると水際から開水面にかけて強固な浮きマット状の純群落を形成する。このため,農業用水路等ではそのマット状の群落により通水障害等を引き起こし,池沼の岸辺では在来種の生育を阻害する。一般に,こうした水生植物の過繁茂は群落内部と周囲の水交換を低下させ,また有機物の分解に伴って容易に貧酸素環境を形成する。チクゴスズメノヒエ純群落もまた,周囲の底性動物相や魚類相などに大きなインパクトを与えていることが予想される。
2009年秋に,河北潟(石川県)の湖岸に広がったチクゴスズメノヒエ純群落において,群落内(水面下)の物理環境測定を実施した。その結果,純群落内の溶存酸素濃度は必ずしも開水面に比べて低くはなく,水面直下ではむしろ群落内の方が高く保たれている場合もあることが観測された。ヨシをはじめとする抽水植物では,底泥の貧酸素環境に対応すべく通気組織を通じて根系に酸素供給を行っており,チクゴスズメノヒエの場合,その浮きマット内において水中に懸垂した根系が周囲に酸素を供給している可能性が示唆された。このチクゴスズメノヒエの根系によって形成された予想外の好気的根圏環境について,動物相への影響から考察する。