| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-015
日本の中部山岳域では,気温の逓減などから求められる亜高山性針葉樹林の森林限界高度(研究対象域では3195m)以下の山稜部に,ハイマツ群落が分布している.とくに,木曽山脈将棋頭山(2730m)を中心とする山稜部では広く分布している.また,このハイマツ群落は,その種組成から,地衣類を伴った高山性の群落と亜高山性植生の識別種群を含む群落とに分けることができる.このようなハイマツ群落の降下は,既往の研究から,最終氷期起源の岩塊地形という土地的要因と,冬季の風雪などのきびしい気象現象にさらされる山頂現象が複合的に作用した結果,亜高山高木林の成立を阻害したと考えられた.そこで,将棋頭山から茶臼山に至る山稜について植生調査を行なった.
植生調査はハイマツ群落を対象とし,Braun-Blanquet(1964)の全推定法を用いた植物社会学的調査を行なった.
その結果,西向斜面では,将棋頭山および行者岩(2658m)は,岩塊斜面上に典型的ハイマツ群落と亜高山性要素を含むハイマツ群落が山頂から岩塊斜面末端の小崖(2660〜2590m)まで成立し,その下方はオオシラビソ群落が成立している.茶臼山(2652m)は,山頂部にわずかな亜高山性要素を含むハイマツ群落が成立し,オオシラビソ群落が隣接している.東向斜面では,将棋頭山および行者岩は,岩塊斜面上に亜高山性要素を含むハイマツ群落が山頂から岩塊斜面末端の小崖まで成立し,その下方はダケカンバ群落が成立している.茶臼山(2652m)は,山頂部までダケカンバ群落が成立している.
このことは,この地域に冬季季節風に伴う山頂現象が卓越し,気温の逓減により規定される森林限界を押し下げていると考えられた.さらに,土壌が未発達な岩塊地は,山頂現象より効果的に高木の成立を阻み,ハイマツ群落が成立したと考えられた.