| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-017
モンゴル北部はユーラシア大陸における森林と草原の移行帯に位置し、山地の北向き斜面に森林、南向き斜面に草原が成立している。北向き斜面には永久凍土が分布し、活動層内に土壌水分が保持されるため、植物にとって重要な水資源となり、年降水量が300mm程度にもかかわらず、森林が維持されると考えられている。しかし、森林の構造や動態の詳細についての情報は限られている。本研究ではモンゴル北部、ヘンティ山地において尾根部、斜面、谷部という3つの調査区(30m×30m/区)を設定し、高さ1.3m以上の木本について毎木調査をおこなった。さらに1.3m未満の木本を稚樹として本数を計測した。また調査区では年輪試料を採取したほか、表層の含水率やpH、傾斜、斜面方位、A0層の厚さ、積雪深を調査した。
カラマツ(Larix sibirica)はそれぞれの調査区で胸高断面積合計の86〜99%を占め、最も優占していた。尾根部ではゴヨウマツ、谷部ではシラカンバの多くと混生しており、地形的位置により種構成が異なっていた。胸高直径のサイズ構造について、カラマツは尾根部で二山型、斜面で一山型、谷部で逆J字型を示した。優占種であるカラマツの稚樹数は少なく、その一方でゴヨウマツの稚樹は多く、それぞれの調査区で全稚樹数のおよそ6~7割を占めていた。またシラカンバの稚樹は全て萌芽由来のシュートであった。これらの結果は現在のカラマツ林ではカラマツ後継樹の更新が困難であり、谷部のみで連続的に更新していることを示している。地形的位置による立地環境との因果関係は不明だが、上方成長と肥大成長の速度は尾根部<斜面<谷部の順で大きく、尾根部においてのみ樹幹に山火事の痕跡が確認された。そのため現在の森林構造は、地形的位置による撹乱や林分の発達速度の違いを反映したものであると推察される。