| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-022

長野県上高地における沖積錘上に成立するトウヒ林の林分構造

*若松伸彦(立正大・ORC)・金子泰久(立正大・地球環境)・川西基博(鹿児島大・教育)・米林仲(立正大・地球環境)

長野県上高地周辺では,亜高山性針葉樹林内に単木状に出現することの多いトウヒが,沖積錐上を中心に優占林を形成している.発表者らは長野県上高地におけるトウヒ優占林の分布状況,林分構造を明らかにし,その成立メカニズムを検討した.

上高地周辺の地質が異なる複数の沖積錐上において毎木調査をおこなった結果,サワグルミとカツラは堆積岩域に,シラカンバとカラマツは火山岩域に,タニガワハンノキとトウヒは花崗岩域に特徴的に出現することが明らかとなった.花崗岩の下又白谷沖積錐上の林冠にトウヒが優占する林内1haを対象に,地形測量をおこないトウヒの分布を調べた.その結果,林内には舌状ロウブ地形が多く存在し,トウヒの成木個体はその先端部に集中分布していた.その一方で,亜高木層,低木層にトウヒはほとんど存在せず,実生や稚樹も倒木上に稀に出現するものの非常に少なかった.林冠を形成するトウヒの年輪を計測した結果,成木の多くは120〜150年の間に定着した個体であることが明らかとなった.一方,コドラートに隣接する新しい土砂の流入がみられるウラジロモミやタニガワハンノキ優占林内の林床には,トウヒの実生が多く生育しており,そのほとんどがロウブ先端に定着したものであった.

下又白谷沖積錐内に多く存在する舌状ロウブ地形は,土石流や土砂流により形成された可能性が高く,トウヒは細かなマサを生産する花崗岩由来の舌状ロウブ地形上を更新サイトとして一斉更新をおこなうことで優占林を形成していると考えられる.


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