| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-030
はじめに
イヌブナ(Fagus japonica)は暖温帯から冷温帯に分布する落葉広葉樹である。株立ちとなることが一般的だが、稀に通直な幹の高木となり優占することが知られている。しかしイヌブナ優占林の成立要因には、未知の部分が多い。そのため本研究では、高木を含むイヌブナ優先林にて調査を行い、イヌブナの高木化する条件や優先する条件を検討した。
調査法
調査は群馬県中之条町の岩櫃山にて、北向き斜面(北面)南向き斜面(南面)に大別し、毎木調査を行った。調査内容は樹種、幹数、胸高直径、樹高及び、斜面方位と傾斜角である。また、シュミットハンマーにて岩石風化度、落石検出版にて落石数を調査した。
結果
北面、南面共にイヌブナ出現率に大きな違いはなかった。北面のイヌブナは萌芽が少なく高木となる傾向に対し、南面では萌芽が多く株立ちする傾向があった。北面は植生が不均一であるのに対し、南面は比較的均一であった。また南面の方が風化が不均一で、落石が多いことがわかった。
考察
北面のイヌブナが巨木化し、南面のイヌブナが株立ちするのは南面が不安定であり、落石など撹乱が大きいことが原因の一つと考えられる。南面では株立ちしたイヌブナが均一分布していることから、撹乱が大きい立地がイヌブナの生育適地であると推測される。一方、北面では数はばらつくが、個体数は多いため、撹乱が小さくても別の何らかの条件が揃うことで、イヌブナが優占できると考えられる。またこの場合、イヌブナは株立ちせずに巨木化すると推測された。
まとめ
イヌブナは本来、撹乱の大きい土地に生える樹木とされる。撹乱が大きいことはイヌブナ優占林維持の重要なポイントと考えられ、イヌブナの特徴である株立ち樹型の要因であると考えられる。一方、株立ちをするほど撹乱が大きくなくても、他の何らかの条件が揃うことでイヌブナが優占し、その場合イヌブナは株立ちとならず、高木化すると考えられた。