| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-065

東アジアにおけるハリギリの分断分布はどのように形成されたのか

*阪口翔太,竹内やよい,山崎理正 (京大院・農),Ying-Xiong Qiu, Yihui Liu, Xin-shuai Qi (Zhejiang Univ.),Sea-Hyun Kim,Jingyu Han (KFRI),井鷺裕司 (京大院・農)

歴史的気候変動は東アジア温帯域における植物の異所的種分化を加速させてきた,という仮説が提案されている.本研究では広域分布樹木ハリギリに着目し,第四紀後期の気候変動サイクルが本種の分布と集団の遺伝的変異に及ぼした影響を評価することで,上記仮説を検証した.

分布予測モデルに基づいて本種の歴史的分布変遷を再現した結果,現在ハリギリは日本列島,朝鮮半島,中国という3地域に分断分布することが示された.気候寒冷期である最終氷期には,日本列島と朝鮮半島の分布が南部に大きく後退した一方で,東シナ海に出現した大陸棚上に中国から日本列島を結ぶベルト状の分布が再現された.

分布全域からサンプルした75集団のマイクロサテライト変異を解析した結果,日本列島と中国の集団はそれぞれ異なる遺伝子プールに属すことが明らかになった.南北軸での分布拡大・縮小が起こった日本列島では,南部に祖先的なプールが,北部にはより派生的なプールが分布していた.分布域に大きな変動が見られなかった中国では,南部の祖先的プールから派生した複数のプールが辺縁地域に分布していた.朝鮮半島では日本列島南部のプールと中国東部のプールが混合していた.最終氷期以降の分布変遷を考慮すれば,氷期に陸化した東シナ海上で混合した日本列島南部と中国東部の遺伝子プールは気候温暖化に伴って朝鮮半島に拡大した一方,東シナ海の拡大によって日本と中国に再び隔離されたと推定される.

今回の発表では,気候温暖期と寒冷期の分布パターンに加え,気候の安定性がハリギリの遺伝的変異に与える影響についても議論する.


日本生態学会