| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-070

湿地性樹木であるシデコブシが形成する複幹樹形の構造と適応的意義

細川果奈子,森部しのか,岡田篤史,*肥後睦輝(岐阜大・地域)

シデコブシは環境省のレッドデータブックでは準絶滅危惧種とされる東海丘陵要素植物で、その生育立地は谷底斜面や水路底に形成された湧水に涵養される過湿な場所、いわゆる湧水湿地である。シデコブシは高い萌芽能力を持つために、多くの個体が複数の幹から構成される複幹樹形を示すことが指摘されている。したがって萌芽や複幹樹形形成は、湧水湿地におけるシデコブシの個体群維持にとって重要な役割を果たしている可能性がある。本研究の目的は、シデコブシの複幹樹形の構造的特長を明らかにするとともに、複幹樹形が生存率や成長率などに及ぼす影響を検討することである。

調査を行ったのは岐阜県中濃地域のシデコブシ林である。1999年に10ヶ所のシデコブシ林において、生育する樹高1.3m以上の全てのシデコブシの幹を対象として胸高直径を測定した。幹の根元が地表面付近で融合している場合には同一の個体に属する幹として記録した。さらにシデコブシ林内に方形区を設定し、方形区内に生育するシデコブシ以外の樹種を対象としてシデコブシと同じ内容で調査を行った。2年後の2001年に1999年調査幹の生育状態を調べ、胸高直径を測定した。その際、新規加入幹がある場合には、樹種を記録し、胸高直径を測定した。

シデコブシと他樹種の複幹樹形の構造を比較した結果、個体当り幹本数はシデコブシが多く、単幹個体の割合はシデコブシが低かったことから、シデコブシは他樹種に比べて萌芽能力の高いことが示唆された。シデコブシの単幹個体と複幹個体の幹の生存率と成長率を比較した結果、複幹個体の幹は死亡率が低く、成長率は高いことが明らかになった。したがって、萌芽により複幹樹形を形成することは、シデコブシにとって他樹種と競争するうえで有利な特性であることが示唆された。


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