| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-075
本研究では、ダム湖に自生したヤナギ林の形態的特徴を把握し、それに影響を与える環境要因を明確にすることを目的としている。
三春ダムは福島県に位置し、冬期は夏期よりも水位が8m高くなる。調査では、牛縊、蛇石、蛇沢の各前貯水池に生育するタチヤナギ群落に計31箇所10m四方のコドラートを設け、ヤナギ個体の形態的特性と樹木密度を測定し、さらに土壌、リターサンプルを採取、分析した。また、3本の樹木サンプルを伐採し、樹齢、バイオマスなどを測定した。
調査より、タチヤナギは地点ごとに細い個体が密に生えている群落と、太い個体が粗く分布する群落が存在することが分かった。また、多くの場所で樹齢はほぼ10年で、ダムの湛水が開始された時に生え始めたことが分かった。樹木密度と胸高直径の関係を見ると、密度が1本/m2以下の疎なコドラートは密なコドラートのものと比較して、胸高直径が大きく、胸高直径と樹高の関係を見ると、密なコドラートでは胸高直径が小さく、疎なコドラートのものは大きいことが分かった。このことは、密なコドラートにおいて競合による日射不足で生長が抑制されたと考えられる。
三春ダムでは完成直後に、最大流量3990m3/sの洪水に見舞われて大量の洪水流が流入した。その際河岸に生えていた樹木は大きく影響されたと考えられる。そこで貯留関数法により各流入河川の流量を求め、水深、勾配から底面に働くせん断力を見積もった。樹木密度とせん断力との関係より、この時に冠水した場所では樹木密度が小さくなっており、冠水しなかった場所のみ高い樹木密度を維持している。これは、洪水により幼木が流失、樹木密度が低くなり残った個体はその後成長したと考えられる。