| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-085
一回繁殖型植物は一度のみの繁殖で確実に子孫を残す必要があるため、その繁殖戦略は質的にも量的にも多回繁殖型植物とは異なると考えられる。林床性多年生草本オオウバユリは長い栄養成長期間の後、一回の有性繁殖と、娘鱗茎の形成による栄養繁殖を行う。先行研究より自家和合性を持つが強い近交弱勢は示さないこと、集団によって開花個体サイズや他殖率が異なることが示されている。そこで本研究では、生育環境の違いによる有性繁殖と栄養繁殖への依存度を評価し、それぞれの繁殖様式による集団の維持機構を明らかにすることを目的とした。
調査は、原生林内に位置する野幌森林公園(NP)、孤立林である千歳防風林(CT)と北大植物園(BG)の3集団を対象に行った。まず、経年追跡調査よりNPとBGでは前年のロゼット葉が6枚以上の個体から開花するのに対し、CTでは4枚以上から開花していた。これに伴い、NPとBGではCTよりも花数・娘鱗茎数が多く、集団間で開花への移行段階、ひいては繁殖体生産が異なることが明らかになった。次に、交配実験および種子の遺伝解析によると、NPでは他殖率が高く、BGやCTでは他殖率は低いものの自殖による繁殖保証が行われていた。最後に、各集団に設置した調査区内の個体の遺伝子型を特定し、ジェネットの分布を調査した結果、どの調査地においてもジェネットの大きな広がりは認められず、親個体のすぐ近くに栄養繁殖由来である娘ラメットの形成が認められた。以上の結果より、オオウバユリでは集団間で開花移行サイズやそれに伴う繁殖体生産が異なることが明らかになった。有性繁殖に関しては、生育環境により他殖率が異なるが、自殖による保証を通じて安定的に大量の種子・実生を供給している一方、栄養繁殖によって、ラメットは更新されながらも同一ジェネットが開花・枯死する親個体の場所を受け継ぎ、安定した生存・開花に寄与していることが示された。