| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-093

マレーシア低地熱帯雨林におけるフタバガキ科樹木のすみわけ

*山田裕子,山田俊弘,奥田敏統 (広島大・院・総科)

熱帯雨林内に生育するほとんどの樹種の空間分布パターンは,特定の立地環境に偏った集中分布である。それでは、こういった立地環境間で個体密度が変わる樹種は,立地環境間で個体群動態をも異にするのだろうか?これを明らかにするには,長期的かつ大規模な野外調査データにより作られた推移確率行列による分析が有効である。そこで本研究では,マレーシアのパソ保護林内に設置した長期観測プロット (50 ha) で3つの土性ハビタット (以降ハビタット) のいずれかに偏って分布していたフタバガキ科6種をモデルとし,これら6種の推移確率行列を1985〜1995年の毎木調査データから構築し,個体群動態の種間・ハビタット間の差を弾力性分析と生命表反応解析 (LTRE) を用いて解析した。

各種のλ (個体群増加速度) にハビタット間で有意な差は見られなかった。各動態パラメータの弾力性値は種間で類似し,λに最も影響しているのはどの種も生残速度であった。この結果から個体群動態は,種間もしくはハビタット間で変わらないように見えた。また,生長速度と生残速度、および加入速度と生残速度の弾力性値は負に相関し,生長速度と加入速度の弾力性値は正に相関することがわかった。LTREでは,弾力性分析でよくわからなかった個体群動態の種間およびハビタット間の差を明らかにすることができた。LTREの結果は,(1) ハビタット間のλの差は主に加入速度により生成されている,(2) 種間のλの差に対しては,生長速度と生残速度の寄与はそれぞれ大きいが、相殺している,と要約することができた。どのハビタットでも種間で生長速度と生残速度のλに対する寄与の間にトレードオフ関係があるためλの種間差がほとんどなくなり,そしてその結果λの差が加入速度の違いにより生じることがわかった。


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