| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-217
種子散布は、自ら動くことのできない植物が分布を拡大し子孫を繁栄させていくための重要な戦略の一つである。特に鳥散布は孤立林分への種子供給の機会を与え、鳥散布型樹種は他の散布型の樹種よりも孤立林において更新の可能性が高くなると考えられる。鳥類による種子散布において、とまり木の存在は重要である。したがって鳥類が頻繁に利用する場所に種子の散布は多くなると推測される。そこで本研究では孤立した林分において、鳥類によって利用されるとまり木と稚樹の生育環境が、鳥散布型樹種の分布拡大に与える影響を明らかにすることを目的とした。
本調査地は、空港や道路の建設によって孤立した林分で面積は約2 haである。この林分における高木の鳥散布型樹種であるヤマザクラを対象に、稚樹が密集して生育していた場所に2 m×2 mのプロットを30ヶ所設置し、各プロットにおいて稚樹の個体数、伸長成長量および環境条件として含水率と開空率を調べた。そしてヤマザクラ母樹に飛来した鳥類の観察と11ヶ所のプロットで種子散布の有無を確認した。とまり木については、プロット内に地上1.5 m以上の高さで枝が存在していた樹木を対象に樹種の同定を行い、樹高とプロット内で地上1.5 m以上で最下位に位置している枝の高さを測定した。
種子散布者としてヒヨドリとムクドリが確認され、両種の行動範囲から調査林分内は全域が種子散布可能な範囲と考えられた。しかしヤマザクラの稚樹のプロットにおいて種子の散布がみられなかった場所が存在し、稚樹の分布域にも偏りがみられた。このような散布の有無や分布域の違いがみられたのは、鳥類によって利用されるとまり木の構造と、稚樹の定着できる生育環境に影響されることが示唆された。