| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-219
ある顕花植物の有性繁殖成功へかかる,訪花昆虫の貢献の実態把握には,訪花してくる多様な昆虫種から送粉に実効性のある昆虫種を特定すると共に,送粉昆虫種ごとの貢献度を把握する必要がある。しかしながら従来の研究では,昆虫種ごとの貢献度を抽出できる適当な実験手法が確立されていない。そのため,種ごとの貢献度の具体的な把握は,課題として残されてきた。そこで我々は,解決の第一歩として,特定昆虫種群の訪花のみを排除できる「ネットがけ処理」を開発し,多様な昆虫種に訪花されるクサギにおける,アゲハチョウ属昆虫の送粉貢献度の推定を試みた。アゲハチョウ属昆虫の訪花を選択的に排除した際に低下したクサギ種子生産量を送粉貢献度として間接的に推定し,これまでに同属昆虫がクサギにとって有益な送粉者であることを明らかにしてきた。本発表ではさらに,クサギ開花期間における結実動態から,経時的に変化する同属昆虫の送粉特性を推定する。
具体的には,「ネットがけ処理」群落で開花した全ての花をマーキングし1花ごとの結実を把握し,アゲハチョウ属昆虫の訪花頻度の動態と比較検討した。他の昆虫による訪花頻度も把握した。比較には,全開花期間を7日間ごと5つに分割し,開花時期ごとに推定したアゲハチョウ送粉貢献度を用いた。
その結果,5つのうち最後の時期に,全昆虫の訪花数が比較的少なかったにもかかわらず,アゲハチョウ訪花だけは他の時期に比べ増加し,アゲハチョウ属の送粉貢献が有意に高まったことが示された。また,同属昆虫による送粉貢献は,全開花期間で均一に生じているわけでなく,アゲハチョウ訪花回数が多い時期に限って有意に生じていることが明らかとなった。これらの結果から,アゲハチョウ属昆虫が,クサギにとって単に有益な送粉者であるだけでなく,他の訪花昆虫よりも,非常に貢献の高い送粉行動を行っていることが考えられた。