| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-224
群集内で同じ送粉者を利用する植物種どうしは、しばしば送粉者の訪問の頻度や質を低下させあう競争的な関係にあると考えられている。その一方で、植物種間の促進的な関係を指摘する見解もある。送粉者の存在を介した植物種間の相互作用の性質と強さは、どのような花形質を持つ植物種が群集内で共存できるかを左右すると考えられる。ところが、群集内の植物種の花形質に関する従来の研究では、種間の促進効果はほとんど考慮されていない。すなわち、同時期に咲く植物は送粉者をめぐる競争関係にあるため、競争を緩和するように種間で花形質が多様化すると考えられてきた。しかし、数少ない検証例ではこの仮説を支持する確証が得られていない。たとえばGumbert ら(1999)は、群集内で同時期に花を咲かせるハナバチ媒植物は花色がいつもたがいに異なるとは限らず、中にはたがいに花色が似かよっている場合もあることを示した。著者は競争と促進の両方を考慮してはじめて、群集を構成する植物種の花形質を説明できると考える。この植物種間の競争と促進のバランスに大きく影響しそうなのが、種間での開花期の重なり度合いである。種間で開花期が前後していて重なりが小さい場合には、新しい花を探す送粉者は通いなれた花に色や形の似た種を利用することで探索や学習にかかるコストを節約できる。よって、花形質の似ている植物ほど群集内で共存しやすいと予測される。一方、開花期が大きく重なる植物どうしでは、色や形の似た花を咲かせれば送粉者が複数種の花のあいだを行き来してしまい、種内交配の機会が減るだろう。したがって、この場合には花の色や形が異なるものが共存しやすいと予測される。本研究では、Gumbertら(1999)の先行研究で用いられた群集内の花色構成のデータを種間での開花期の重なり具合も考慮して再解析することにより、上記の予測を検証する。