| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-225
花形質と送粉者の形態や行動様式には一定の相関関係が見られ、送粉シンドロームと呼ばれる。しかし、送粉シンドロームは一般的ではないとする批判は多い。大型の花冠で花器に複雑な構造がなく、開花期間が長い花は様々な者に訪花されやすいと予想される。このような花にも特定の送粉者に適応した花形質があるのかを、ユリ属の近縁な2種を用いて、[1]送粉環境が変わると花形質は分化するか、[2]花形質は最も有効な送粉者に適応しているか、を訪花昆虫と訪花頻度、一日の花香強度のパターン、開花時間、葯の形態から調べた。
その結果、昼行性昆虫と夜行性昆虫の訪花頻度に関して、ササユリとジンリョウユリの間で顕著な違いが見られた。ササユリの主要な送粉昆虫は夜行性の蛾であり、ジンリョウユリの主要な送粉昆虫はハナバチ類だった。ササユリおよびジンリョウユリの花香強度は夕方から上昇し、10時〜14時に最も低くなった。ジンリョウユリの開花時間は夜間に全体の66%、昼間に33%であった。ササユリの開花時間は先行研究から夕方であると報告されている。また葯の付き方ではササユリはT字型、ジンリョウユリはI字型であった。
ジンリョウユリとササユリは、送粉に関係する花形質において顕著な違いを持つことが分かった。このような違いは、主要な送粉昆虫である夜行性の蛾と昼行性のハナバチ類に適応した結果として生じたものと考えられる。しかし、ジンリョウユリは蛾媒に適応した形質も保持していることがわかった。昼行性の訪花昆虫は花粉を摂食しない夜行性の蛾に比べれば、効率の悪い送粉者であり、ササユリは夕方に開花し、夜行性の蛾に先に訪花されることが有利だと考えられる。複数の送粉者を利用する植物でも異なる送粉環境下では、利用する送粉者の比率を最適化するように進化が起き、花形質が分化することを示唆した。