| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-279
熊本県の阿蘇地域には,採草や野焼きなどの人間活動によって維持される半自然草原が広がっている。阿蘇の草原の歴史については,植物珪酸体分析に基づいて,最終氷期から草原が広がっていたとの説が提示されている一方で,花粉分析では,最終氷期以降,連続して多くの木本花粉が検出されている。そこで本研究では,草原植生が花粉組成にどのように反映されるのか,という資料を得るため,阿蘇地域の複数地点で表層土壌試料を採取し,花粉組成と周辺植生との対応関係を明らかにした。また,それを阿蘇谷の堆積物の化石花粉組成に応用して,植生復元を試みた。
表層土壌試料は,「草原」(ススキ,ネザサ,シバ),「草原内の小林分」(カシワ,コナラ)ならびに「森林」(スギ,常緑広葉樹,落葉広葉樹)の3つの植生型の計20地点で,リター層直下の腐植質土壌を採取した。全ての地点で,スギ花粉をはじめとする木本花粉が花粉総数の40%以上を占めたが,草本花粉の割合は「草原」で高く,「森林」で低い傾向が顕著だった。「草原」では,イネ科花粉の出現率が高く,マツムシソウ属やタンポポ亜科などの草本花粉が特徴的に検出された。「小林分」では,林分の構成種であるコナラ亜属の花粉が多く検出され,「森林」では,各林分の優占種に対応してスギやアカガシ亜属の花粉が高率で出現した。
堆積物試料は,阿蘇市市ノ川の湿地(標高450m)で採取し,約1200年前という放射性炭素年代が得られた深度3mまでを分析に用いた。堆積物中の花粉組成には大きな変化がなく,イネ科やコナラ亜属が多く出現した。表層土壌試料の分析結果と比較すると,過去1200年間は,現在の「草原」に近い,開けた植生景観が維持されてきた可能性が高いことが示された。