| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-285
農地生態系サービスの一つに,種子食動物による“雑草防除サービス”がある。種子捕食は雑草種子の主要な死滅要因であり,欧米では雑草の生物的防除に適用されつつある。しかし日本を含むアジア地域では,農地の種子捕食に関する知見が皆無であり,その定量が不可欠である。種子捕食の定量においては,ランドスケープとの関係を理解する必要もある。なぜなら,農地ランドスケープにおける畦畔や草地,林地などの非作付地のコンポーネントが種子捕食者の生息地となり,圃場内部への供給源として重要な役割を持つためである。本研究では,対照的なランドスケープの農地において,そこへ侵入した外来イネ科雑草ネズミムギ(Lolium multiflorum)の種子捕食率と捕食者を比較した。
静岡県内の,単純な農地ランドスケープ(大規模コムギ‐ダイズ連作圃場)の圃場内部および畦畔と,多様性の高い農地ランドスケープ(伝統的棚田)の畦畔にて2年間調査した。ネズミムギ種子散布後の8月から出芽開始期である10月までの夏期3ヶ月間の累積捕食率は,両年ともに棚田畦畔で最も高く,99〜100%(2週間あたり平均捕食率は47〜52%)であった。一方,大規模圃場では年次によって大きく変動し,圃場内部では46〜100%(同9〜49%),畦畔では54〜82%(同12〜23%)であった。主な種子捕食者は,棚田では昆虫類(コオロギ類,ゴミムシ類),大規模圃場では昆虫類,鳥類および哺乳類と推定された。本研究の結果より,多様性の高い農地ランドスケープでは,単純なランドスケープと比べて,種子捕食率が安定的に高いことが示唆された。