| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-299
ニホンザルは、人を除く霊長類の中で最も高緯度に生息することができる。環境への適応能力が高いため、農作物被害や生活被害などの被害体系が様々である。そこで、被害対策として長期的で、広域スケールでの個体群管理や生息地の管理が求められている。その際、どのような環境因子が野生動物の分布に関係するかを考慮し、生息適地の予測モデルを構築することが有効である。本論では、サルによる被害が少ない1970年代と被害が顕著である2000年代の2時期に着目した。1978年のLANDSAT/MSSデータと2007年のALOS/AVNIR-2データを用いて、2時期のニホンザル生息適地マップを構築し、29年間における変化を評価することを目的とした。生息地の変化からサルの生息適地の変化を予測し、現在の分布状況に至った過程を考察した。
2007年のAVNIR-2データから、オブジェクトベース分類とCARTモデルを組み合わせ、2000年代の植生図を作成した。次に1978年のMSSデータに対し、変化抽出を適用し、1970年代の植生図を作成した。また3年間のラジオテレメトリーから得られた位置情報と、地形、植生、人的要因を組み合わせ、一般化線形混合モデルによりサルの生息適地を推定した。このモデルを1970年代の植生図に外挿し、過去のサルの生息適地とした。
モデルから、サルは林縁から近く、針葉樹、農地、住宅地が少ないエリアを好むことが明らかとなった。1978年から2007年にかけて、サルの生息適地は広域に分散した。これは、生息地内の人工林の変化によるものであると推察される。29年間に針葉樹林が混交林や広葉樹林に変化したため、サルの分布を制限する要因が減少したと考えられる。現在の分布拡大は、サル生息地内における植生の変化による可能性が推察される。