| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-301
多種共存を説明する仮説の1つとして森林では近年、種子散布制限(落下種子の不到達)も競争排除を弱めるメカニズムとなり得る。渓畔林は構成樹種が多様であり、渓流内および渓流間でも環境条件が異なっているので、景観スケールで共存機構を考える必要がある。本研究では、渓畔林の主要樹木の分布に1)生活史特性の種間差、2)渓流間の撹乱体制の違い、3)種子散布制限の影響を探った。
岩手県胆沢川支流のカヌマ沢と大荒沢を含む渓畔域(16.75ha)で撹乱体制を定量化し、イタヤカエデ、サワグルミ、ヤマハンノキについて生活史特性(母樹あたりの実生定着数、稚樹と成木の成長速度および死亡率、繁殖を開始するサイズと齢)と種子散布制限を定量化した。
稚樹の樹高成長速度は、ヤマハンノキ(9.7cm/yr)、サワグルミ(4.0)、イタヤカエデ(2.2)の順に高かった。繁殖開始齢はヤマハンノキ(16年)が最も若く、イタヤカエデは1.9倍、サワグルミは3.5倍であった。撹乱の再来間隔は、土石流堆積地の更新木パッチの年輪解析と過去の観測記録から大荒沢2.8年、カヌマ沢18年と推定された。一方、種子散布制限の作用は、カヌマ沢ではイタヤカエデ、大荒沢ではヤマハンノキで最も弱かった。河川撹乱が多い大荒沢において、種子到達範囲が広く、早熟なヤマハンノキが優占し得るが、イタヤカエデとサワグルミでは、種子散布制限と繁殖スケジュールが多種共存に関係すると考えられる。安定的なカヌマ沢において、イタヤカエデでは環境条件の違いが、サワグルミでは種子散布制限が多種共存をもたらす要因の1つになっていると考えられる。このように主要樹木のニッチ過程と種子散布制限の比重は、樹種ごとサイトごとに異なると考えられる。