| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-302
温暖化などの気候変動に対し、生物はより適した環境を求め分布を変化させると考えられる。しかし、これまでの研究では、温暖化に伴い高緯度へ移動した例以外に、低緯度へ移動する種や分布を変化させない種が知られている。このように気候変動に対する分布応答は決して単純なものではなく、複数の要因に制限され、どの程度の種が温度上昇にともなって分布を北上させているのかはあきらかでない。
本研究では、環境省生物多様性データベースによる1979〜1998年の約225種のチョウ分布データと、環境データ(標高、最寒月平均気温、5度以上の積算温度 [暖かさ指数]、降水量、日射量)を用いて、生息域予測に用いられるニッチモデル Maximum Entropy Modeling (Maxent)を利用し、現実の分布をどの程度予測できるかを調べた。年代を4期間に分け、(1)予測した分布と現実の分布が一致して北上している種、(2)予測した分布を越えて現実の分布が北上している種、(3)予測した分布よりも現実の分布が低緯度に限定されている種などを抽出した。これらの解析から(1)を示す種では、温度などの気候条件が分布を決めていると推測されるが、(2)(3)を示す種では、気候以外が分布の北限を決めていると推測される。たとえば、現在北への分布拡大が報告されているPapilio memnonでは、1980年代では、Maxentが予測する分布域よりも南に分布が限定されており、次第に予測分布域の中で北上していることがわかった。このことは、温度などの気候条件以外の要因が北上に関係していると予測される。
発表では、Maxentモデルによって有効に分布が予測できた111種についての結果を報告する。