| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-304
都市において斜面に残存する森林は、自然の最後の砦となっている。しかし、近年は建設技術の発展もあり開発利潤が十分に得られる立地条件の良い場所では開発が進んでいく傾向にあり、保全するための新たな手立てが早急に必要である。一方で、これまで都市における斜面林を対象とした研究の多くは、防災や気候緩和といった建築・都市計画分野からの視点であり、生物生息地としての価値は明らかになっていない。そこで本研究では都市環境をよく示すとされるシダ植物を指標生物として用い、都市における斜面林の生物的環境評価をおこなうことを目的とした。
調査は丘陵地の上に成り立ち、斜面が多く見られる横浜市でおこなった。250m×250mの調査区を特定の土地利用に偏りが出ないよう様々な場所に設置し、まんべんなく歩き出現したシダ植物を記録した。また比較のために平坦地が多い場所でも同様の調査をおこなった。
調査の結果35種が記録され、斜面林の多い調査区において多くの種が確認された。もっとも多く出現したのはイヌワラビであり、土地利用・斜面林の有無、関係なくほとんどの調査区で確認された。また反対にホウライシダ(市街地)、ヤマイタチシダ(森林)など特定の土地利用で多く出現する種も確認された。各調査区で記録された種数と環境要因(急斜面地面積、森林面積、住宅面積、市街地面積)との関係を解析した結果、急斜面地面積、森林面積が多い場所ほど種数が増加することが明らかになった。このことから都市における斜面緑地はシダ植物にとって重要な生息地であると考えられる。今後は、過去の土地利用変化から将来の土地利用を予測し、開発が進むにつれてシダ植物の分布がどのように変化していくか明らかにする予定である。