| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-039
体内に共生微生物を保持し、共生微生物なしには生存・繁殖できない絶対的共生関係が進化している生物は多い。このような極端な依存関係は、長期間に渡る共生の歴史を経て宿主と共生微生物が高度に共進化・共適応した結果と考えられる。したがって、もし共生微生物がまったく別の微生物に置換されると、宿主と微生物の間の相互作用が相利的にはたらかず、宿主の適応度が低下して集団中から排除されることが予想される。本研究はチャバネアオカメムシの絶対的共生細菌について野外調査をおこなったところ、予想に反して、置換された細菌が集団中に維持されており、共生細菌の集団間・集団内多型が存在することを発見した。
チャバネアオカメムシは中腸の管腔内に共生細菌を保持しており、メス親が卵の表面に共生細菌を塗布し、孵化幼虫がこれを摂取することで母系垂直伝播している。実験的に共生細菌を除去した幼虫はほとんど成長できずに死亡することから、共生細菌は宿主の成長に必須な栄養分を合成していると考えられている。日本全国で採集した186個体の成虫について共生細菌のタイピングをおこなったところ、共生細菌には個体間多型が存在することが明らかになり、起源の異なる4種類の共生細菌が確認された。九州の本土部分より北では1種の共生細菌しか見られなかったが、南西諸島の各島には残りの3種のいずれかを持つ個体が混在していた。ミトコンドリアの遺伝子配列を用いて宿主カメムシの系統解析をおこなったところ、分岐パタンは生息地の地理的位置のみを説明し、共生細菌のタイプとは無関係であった。これらの結果から南西諸島では置換による共生細菌の多型が各島で独立に生じ、維持されていると考えられる。絶対的共生関係における体内共生微生物の種内多型は他に例がなく、本研究が初めての報告である。置換のメカニズムと多型の維持機構について考察する。