| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-040

アオモンイトトンボにおける頻度依存的な体サイズ差をもたらす幼虫期の要因

*澤田 浩司(福岡県立福岡高校), 粕谷 英一(九大・理・生物)

アオモンイトトンボ(Ischnura senegalensis)には、動物全体でみても珍しい特徴として、雌の体色に二型が存在する。一方は成熟すると褐色の胸部をもつ雌型雌、他方は雄と同じ青緑色の胸部をもつ雄型雌であり、常染色体上の1ないし少数の遺伝子座の限性遺伝によって決定される。福岡市近郊の個体群では、雌型雌と雄型雌の比が約3対1で安定する傾向にあり、雌二型は負の頻度依存淘汰によって維持されていると考えられる。過去の野外個体群での調査により、各個体群における雄型雌および雌型雌の平均後翅長の差には、雄型雌の頻度と負の相関があった。つまり、ある個体群における雄型雌の頻度が低い場合には、平均後翅長の差が大きい(雄型雌がより大きい)という傾向があった。また、雌の後翅長と平均産卵数との間には正の相関がある。したがって、平衡頻度より低い型の雌は、体長がより大きくなり産卵数も増加することによって有利になることが負の頻度依存淘汰のメカニズムとして考えられる。

成虫の体長は幼虫時の成長に大きく影響されると考えられるので、視野を広げて幼虫時についても調査する必要がある。幼虫を用いた環境選択実験(単独で飼育した終齢幼虫に、水槽内の水草の環境を選ばせる実験)を行った結果、雄型雌の幼虫と雌型雌の幼虫には環境の選好性に差があり、雌型雌の幼虫は水草の多い環境を選択した。さらに、終齢での飼育では、密度が低いと羽化後の雌の後翅長がより大きくなる傾向があった。これらの結果は、各タイプの幼虫の成長が頻度依存的に変化すること、たとえば、一方の環境を選好するタイプの幼虫の頻度が低下した場合、その環境の餌を利用する個体が少なくなり、その型の幼虫の摂食速度が高まって成長に有利になる可能性を支持する。


日本生態学会