| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-063

隠れた変異の蓄積と顕在化に与える環境変動の影響:遺伝子制御ネットワークの個体ベースモデル

*岩嵜航, 津田真樹, 河田雅圭 (東北大・生命)

ある生物集団が新しい環境に遭遇すると、通常生息している環境で観察されるよりも大きな表現型分散が現れる場合がある。このことから、集団内には通常環境において表現型に現れていない「隠れた変異」が存在しており、それらは環境変動などを通じて顕在化し、表現型の多様性を生み出すことで進化に寄与すると考えられる。本研究では、集団内の隠れた変異の蓄積と顕在化に対して遺伝子制御ネットワークと環境の相互作用が与える影響について、個体ベースモデルを用いて調べた。

集団を異なる安定化選択圧の下で進化させた場合、強い選択圧にさらされている集団ほど通常環境における表現型分散が小さくなったが、新規環境にさらしたときに現れる表現型分散にはそれらの集団間で違いが無かった。また、個体が世代内で異なる環境を経験するような状況を想定し、経験させる環境の数を変化させ、その結果進化する集団について調べた。経験させた環境の数は通常環境における表現型分散には影響しなかったが、経験させた環境の数が多いほど集団内の遺伝的多様性と隠れた変異は減少した。

次に、新規環境において集団内の表現型変化をもたらす要因、すなわち隠れた変異の所在を調べるため、遺伝子制御ネットワーク内部の構造の違いとシグナル受容部位の違いが個体間の表現型の差に与える影響を調べた。その結果、シグナル受容部位の変異とネットワーク構造の違いの両者が個体間で表現型の違いに寄与していた。

これらのことから、表現型に対する選択が集団内の遺伝的構造の進化を制約し、隠れた変異の大きさに影響することが示唆された。


日本生態学会