| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-072
集団に複数の適応ピークを生じるような自然選択を、多様化選択と呼ぶが、これは種分化の原因となることがある。この際に、地理的障壁は必ずしも必要ではなく、同所的、または側所的に分布する集団においても、多様化選択によって種分化が起こりうると考えられている。多様化選択を引き起こす要因として、温度などの環境勾配が挙げられる。
四国の固有種であるオオオサムシ亜属の1種、シコクオサムシは、生息地の標高に対応して集団毎に体サイズが大きく異なる。一部の中間的な標高域では大型の集団と小型の集団が近接して分布しており、体サイズ差よって集団間に機械的な生殖隔離が生じている可能性がある。
そこで、本研究では体サイズ分化による種分化の可能性を探求するために、生息地標高と体長の関係、実験条件下での温度依存的発育速度・体サイズ、体サイズが異なる集団間の生殖隔離について調べた。
シコクオサムシは大型集団と小型集団からなり、標高1000m前後を境界として分布が分かれている事が分かった。温度を2条件に分けて行った幼虫の飼育実験により、成虫の体長は発育温度の影響を受けるが、その変化は集団間の体長差を変化させる程には大きくない事が分かった。つまり、体長は遺伝的要因に強く影響されていると考えられる。また、集団間の交雑実験によって、集団間の生殖隔離に雌雄の体長差の影響が認められた。シコクオサムシの生息地が剣山、石鎚山などの険しい山系に存在しているため、標高上の分布境界には好適な生息地が少ない。また、標高の変化が急激であるため、体サイズが異なる集団は、一定の境界を超えて相互に生息地を拡大できない可能性があると考えられる。すなわち、シコクオサムシは一定の標高を境界として体サイズの違う集団の分布域が分断されており、集団間の体サイズの変化は生殖隔離に影響する事、体サイズの集団間の差は遺伝的要因によって決定している事が示唆された。