| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-077
どのような生態系が存続できるのだろうか?Rooneyら(2006)は、「非対称な食物網構造」が生態系を安定化する可能性を指摘した。非対称な食物網構造とは、(1)エネルギーの流動速度が異なる二つの食物連鎖があり、(2)両方から捕食する捕食者がそれらを連結する、というものである。Rooneyらが用いた数理モデルは生物の進化は考慮していない。しかし近年進化プロセスが生態ダイナミクスに与える影響の重要性が指摘されている。そこで本研究では、非対称な食物網構造が進化に対して安定なのかをシミュレーションモデルを用いて検証する。
Rooneyらのモデルに進化を組み込んだシミュレーションの結果、進化が起きると一方の食物連鎖の中間捕食者が絶滅した。従って、非対称な食物網は進化に対しては不安定であることが分かった。このとき進化した種自身が絶滅する「進化的自滅(evolutionary suicide)」が起こっていた。つまり、進化を考慮するとRooneyらが示した野外食物網の非対称性を説明できない。
そこで、モデル群集の空間構造を閉じた単一群集からメタ群集へと拡張し、非対称な食物網が進化に対して安定となるのか調べた。メタ群集とは生物の移動分散によって接続された複数の局所群集の集まりである。
メタ群集モデルでは進化が起こっても非対称な食物網が安定となる条件があることが分かった。局所群集内では進化的自滅へ向かう選択圧が働いていた。しかし、局所個体群に対する自然選択がその進化を止める事が示唆された。また、メタ群集上での進化がもたらした食物網構造は、Rooneyらのモデルとは少し異なる非対称性を持っていた。
以上の結果からメタ群集上で非対称な食物網構造が進化し、安定となり得る事が分かった。Rooneyらが示した野外食物網の非対称性はメタ群集上での進化から生じた可能性がある。