| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-085
群集における多様性と時間的安定性の関係を検証した一連の研究によれば、多様性の増加に伴って安定性が増すことが示唆されている。一方、多様性自体よりも優占種の独自性が安定性を支えているという見解も存在する。しかしながら、群集の安定性における多様性と優占種の独自性の相対的重要性を検証した実証的研究は非常に少なく、あまり明瞭な結果は得られていない。
本研究では、アメリカ・コロラド州の短草草原における優占種(Bouteloua gracilis、イネ科多年生C4草本)除去後10年にわたるデータを用いて、多様性と優占種の独自性のどちらが降水量変動下の群集の時間的安定性を規定しているかを検証した。さらに、これらの要素が安定性を規定するメカニズムについても検証した。
結果、種数、レア種の数、およびレア種の相対優占度と安定性の間には有意な負の関係が見られた。一方、優占種の相対優占度と安定性の間には有意な正の関係が見られた。群集内の種の総分散と総共分散は、種数の増加とともに有意に増加し、優占種の相対優占度の増加とともに有意に減少した。
本研究は、群集の時間的安定性は10年スケールでは多様性よりも優占種の独自性に大きく左右されることを示唆している。とくに優占種となる種が、群集内の他種に比べて、降水量変動等の不確実性の高い系において安定性に寄与する独自性を持つような場合、多様性と安定性の関係の一般性は優占種の動態によって制限されるのかもしれない。群集における優占度の階層性とその変化も、生態系機能維持を考える上で注目すべき要素の一つであると考えられる。