| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-086
これまで全球や大陸といった大スケールでの個体群・生物多様性の変化は、個体数の増減といった1つの測定項目から評価されてきた。しかし、樹木や動物の一部では個体数とバイオマスに負の相関関係があることが指摘されている。これらの生物群では、個体数が減少するとき2つの状況が考えられる。一つは密度効果で個体数が減少し、バイオマスが増加する状況、もう一つは自然および人為的な攪乱により個体数もバイオマスも減少する状況である。両状況が混在する中で個体群や生物多様性の動態を評価する場合、個体数の増減だけでは結果を誤って評価する恐れがある。
そこで、日本の成熟した天然林(11林分)を対象に、種ごとの幹本数(≒個体数)と胸高断面積合計(≒バイオマス)を用いて個体群の変化を評価した。各林分では1990年代と2000年代にDBH5cm以上の樹木の毎木調査が行われている。これらのデータを用い、幹本数と胸高断面積合計の変化率の幾何平均を、全国レベル、植生帯レベル、および林分レベルにおいて計算した。その結果、全国レベルでは幹本数が減少する一方で、胸高断面積合計には変化がなかった。しかし、植生帯レベルや林分レベルの間にはばらつきが認められ、胸高断面積合計が増加している植生帯や林分もあった。以上のことから、日本の成熟した天然林は衰退しているとは言えず、植生帯レベルではむしろ成長している可能性も示唆された。また、これらのことは2つ以上の測定項目を用いることにより、個体群・生物多様性の変化をより正確に評価できることを示した。