| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-087
生物群集の集合機構には分散とニッチが関与しており、これらをパラメータとして群集の種多様性を予測するモデリング手法が必要とされている。私達は、琉球諸島と九州および台湾に分布する蝶と植物に関するデータを整理した。台湾から九州の73島嶼では迷蝶を含め約570種の蝶が分布し、各島レベルの蝶の種多様性は、台湾をソースとした分散と各島の環境条件(ニッチ)の組み合わせで決定されていることが予想された。そこで本研究では、各島の台湾からの距離と植物種数を説明変数とし、島の蝶の在・不在を予測する統計モデルを開発した。蝶の分布モデルのパラメータは、各種の属する科・属で階層的に事前分布を設定し、MCMC法によって推定した。なお、植物種についても、台湾からの距離と島面積を説明変数とする分布モデルを開発した。蝶と植物の分布モデルから得られた種毎の分布確率を総和して島毎の蝶種数と植物種数の事後分布を推定した。また島間の種毎の分布確率の偏差を総和した値をベータ多様性と定義し、その事後分布も推定した。島の蝶種数は、植物種数が多いほど増加し、かつ台湾からの距離傾度に応じて減衰した。モデルの予測値を用いて蝶種数−島面積関係を再現すると、台湾に近い八重山島嶼で上限種数は大きく、北琉球の島嶼では小さく、観測データとうまく一致していた。なお、島の植物種数は、台湾からの距離にはあまり依存せず、植物種数−島面積関係の種数の上限値は島嶼間でほぼ一致していた。蝶種のベータ多様性は、台湾に近い島間(八重山島嶼)ほど大きかった。これらの結果から、琉球諸島における蝶群集の種多様性は、局所的には植物種数と関連したニッチに、広域的には台湾をソースとした分散制限に規定されている可能性が示唆された。