| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-092

琵琶湖産魚類の比較人口学解析

*田畑諒一(京大・理),柿岡諒,富永浩史,小宮竹史,渡辺勝敏(京大院・理)

日本産淡水魚類は、生活史の大部分を淡水で過ごす、もしくは淡水域で産卵する魚類と定義すると約140種・亜種ほどになる。琵琶湖とその周辺にはそのうち61種が生息しており、その多様性は日本国内では他に類を見ない。琵琶湖は長い歴史を持つ古代湖でもあり、琵琶湖の環境に適応進化した固有種・亜種が11種・亜種いる。しかしこれら以外の大部分の種は琵琶湖以外にも生息する。これはタンガニイカ湖など他の古代湖の魚類相の構成種の多くが固有種で、魚類相形成において適応放散が大きな役割を果たしたケースとは、異なっている。この多様な種を含む琵琶湖の魚類相の形成過程を明らかにする上で、現生の集団の遺伝的構造や人口学的歴史を明らかにすることは重要である。本研究では琵琶湖とその周辺に生息する在来淡水魚33種約1600個体について、ミトコンドリアDNAのcytb領域の部分塩基配列データを用いて人口学的解析および遺伝的多様性の検討を行った。魚種ごとに推定されたハプロタイプ多様度や最近の集団拡大の有無と、その種の生息場所や食性などとの関連性を調べた。その結果、ハプロタイプ多様度は0〜0.972の範囲を示し、大型の肉食性の種と、産卵時に沿岸で基質を使う種で低くなる傾向がみられた。また琵琶湖の集団にはボトルネック後に集団拡大している種、ボトルネック後で集団拡大がまだ起こっていない種、分断された別の集団からの二次的な接触を受けた種の3つのパターンがみられた。それらには琵琶湖内に生息する種はボトルネック後の集団拡大を経験している種が多く、周辺河川のみに生息する種はそのような傾向にないという生息場所の違いが関連していることが示唆された。生活史の違いが遺伝的多様性に影響を及ぼし、琵琶湖とその周辺域の歴史的な環境の違いが各魚種の人口学的歴史に影響を及ぼしている可能性がある。


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