| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-096
多種の共存を可能にしている食物網構造や生物の性質の解明は、生態学における重要なテーマである。これまでに、捕食―被食相互作用のリンクのパターンや強さの変化が、群集の動態、共存種数に影響を与えることが理論的に示されてきた。従来の理論研究では、捕食者の餌利用形質や被食者の防御形質あるいは両者が適応的に変化することによるリンクの変化を仮定したものが多い。明確な進化プロセスを仮定したモデルでは、捕食者による相互作用の進化的変化しか扱われていない。しかし、現実の生態系においては、捕食者―被食者間ではしばしば共進化が起こっている。また、これまでの共進化研究では1種対1種の関係に着目したものが多く、複数種間で起こる拡散共進化を扱った理論研究はほとんどない。そこで本研究では、捕食者―被食者間のgene-for-gene共進化モデルを多種系に拡張し、個体ベースモデルによるシミュレーションを行なった。これにより、明確な進化プロセスを考慮した場合の、捕食―被食相互作用の共進化が群集の共存種数や構造に与える影響について報告する。
さらに、本研究では、上記の食物網モデルを、さらにメタ群集モデルへ拡張した。自然生態系では、しばしば局所群集間では移動分散が起こっており、局所群集への種や個体の供給、局所群集間の種構成・動態のちがいを消失させるなどの重要な効果をもつ。また局所群集内ではしばしば局所適応が起こっているが、局所群集間の移動分散にともなう遺伝子流動は、局所群集へ適応的あるいは不適応な遺伝的変異を供給したり、メタ群集全体の遺伝的変異を減少させたりすることで、局所適応に影響を与えると考えられる。このメタ個体群における進化プロセスを考慮した食物網モデルを用いて、移動分散が局所群集の共存種数や構造、局所適応に与える影響について調べる。