| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-097
西南暖地最大の草原地帯が広がる九重・阿蘇地域の草原は、わが国有数の放牧地でもあるが、近年、放牧地の利用形態が変化し、一部の優良な放牧地に放牧牛が集中する傾向がみられている。放牧地に放置された牛フンから発生するハエ類の問題が顕在化しており、ハエ類の発生抑制策の検討は、放牧地周辺環境における保健衛生上の重要な問題の1つとなっている。また、これらハエ類の中には放牧牛に寄生し、摂食活動を阻害あるいは病気を伝播させる吸血性のサシバエ科のミナミサシバエなどのように畜産上の害虫となる種も少なくない。本研究は、牛の野外放牧が行われている阿蘇地域の草原において、ハエ類の季節消長を明らかにするとともに、牛フンから羽化するハエ類を解明することを目的として、年間を通じた定期的な調査を実施した。調査地は、同地域の植生が異なる放牧地、採草地、自然草地の3か所とした。ハエ目を中心とした草原に生息する昆虫相の調査には、粘着トラップを用いた。さらに、羽化トラップ法により、放牧地の牛フンを用い、定期的なハエ類の羽化数調査を実施した。その結果、粘着トラップを用いた調査では、全個体数の8割以上をハエ目が占め、そのうち、衛生害虫としてのハエ目はノイエバエなどのイエバエ科が最も多く、畜産上の害虫となるハエ目はサシバエ科のサシバエが最も多いことが明らかになった。ハエ目の最優占種はツヤホソバエ科のヒトテンツヤホソバエであった。一方、羽化数調査では、イエバエ科は得られたものの、サシバエ科は得られなかった。ハエ目の季節消長、羽化数調査の結果から、同地域におけるハエ目の発生のピークは梅雨期であることが明らかになった。