| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-100
現在の水田帯には,水田圃場整備や水路のコンクリート化などにより,乾田や湿田,コンクリート水路や土水路などの多様な環境が混在している.そのような状況の中で,乾田化や水路のコンクリート化などは水生生物に与える影響が大きいことが指摘されている.そこで本研究では,多様な水田環境を水生昆虫がどのように利用しているのかを明らかにするため,隣接する整備済み水田帯と未整備水田帯に生息する水生昆虫の生息状況と季節変化を調査した.
調査地は,広島県東広島市八本松町吉川の隣接する整備済み水田帯と未整備水田帯とした.調査は,2008年10月から2009年10月にかけて,約3週間に1回,計18回行った.採集地点は,整備済み水田帯の水路2地点と水田2地点,未整備水田帯の水路2地点と水田2地点の計8地点を設定し,たも網を用いたスイーピング法で定量採集を行なった.調査の結果,蜻蛉目4科9種,半翅目3科3種,鞘翅目3科6種,蜉蝣目4種,毛翅目2種,カワゲラ目1種の計25種,1947個体の水生昆虫が採捕された.生息場所の顕著な偏りがみられたシオカラトンボ,オオシオカラトオンボは恒久的水域となっている未整備水路を利用していたのに対し,ナツアカネは整備水田を利用していた.シオカラトンボとオオシオカラトンボは幼虫で越冬するため,未整備水路のような恒久的水域が必要であると考えられる.一方,ナツアカネは水のない場所に打空産卵を行い,卵で越冬するため,一時的水域である整備水田を利用できることが示唆された.タイコウチやホタルトビケラは未整備水田帯のみに出現した.タイコウチは陸上に産卵し,ホタルトビケラは産卵や夏眠,蛹化を陸上で行う.そのため,未整備水田帯において土水路と畦畔とが連続していることが,これらの種の生存を可能にしていることが示唆された.