| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-106

スケールの階層性を考慮した局所草本群落の種多様性評価

相澤章仁

種多様性には局所での多様性であるα多様性、局所間の種組成の違いであるβ多様性、全体の多様性であるγ多様性という空間スケールに依存した3つの概念があり、それらの間にはα+β=γという関係性が存在する。ある緑地や地域の保全策を考慮する際には、希少種や指標種の分布による評価だけではなく、このような種多様性の階層性を考慮して評価を行っていくことが、生態系全体を保全していくという理想的な形の保全策を考える際に有効であると考えられる。そこで本研究では、都市内に残存する孤立した約1haの湿原の植物群落を対象地とし、スケールの階層性を考慮した調査法を用いて種多様性の評価を行うことを目的とした。

対象地である根木内歴史公園(千葉県松戸市)の湿地部を5m×5mのメッシュ222個で区切り、各メッシュの中心部に置かれた1m×1mの方形区内に生育する総ての維管束植物の名前と被度(方形区を16分割したときの占有度)を記録した。方形区内の種多様性をα1と定義し、種数・シンプソンの多様度指数を算出した。また環境条件や管理条件を考慮して湿地部を14の区域に分け、その区域ごとの種多様性をα2とし、各区域内での方形区間の種組成の違いをβ1、区域ごとの種組成の違いをβ2とした。

湿地全体の多様性(γ)にα1、β1、β2がどれだけ寄与しているかを計算すると、種数においてはβ2が最も大きく寄与しており、続いてβ1、α1の順であった。シンプソンの多様度指数では、α1が最も大きく寄与しており、β2、β1と続いた。

今後この湿地の種多様性を保っていくためには、区域間での環境条件の違いを大切にする必要があると考えられるが、各種の均等度を考慮したシンプソンの多様度指数がα1への寄与度が高いことを考慮すると、極小さなスケールで他種を排除するような種を対象に草刈をするなどの管理も必要となると考えられる。


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