| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-107
高緯度に向かい種多様性が減少する理由として、エネルギーの少ない環境ほど種多様性が低いとするエネルギー仮説が支持される一方で、多くの植物種は最終氷期後の分布拡大途上にあるため、高緯度ほど種多様性が低いと主張されている。植物は種子の分散制限により標高に沿った種の分布拡大は距離が近いために早く、緯度に沿った拡大は距離が遠いために遅いことで、標高方向の方が同じエネルギー量でも種多様性は高いと予測された。そこで標高方向と緯度方向の樹種多様性を比較することと、各々の種の標高上限と緯度北限のエネルギー差を解析することで、分散制限が種多様性に与える影響を明らかにした。
調査区(0.05ha)を、標高方向は静岡市内の標高70〜2700mに26ヶ所設置し、緯度方向は静岡市から北海道北部まで25ヶ所設置し毎木調査を行った。また樹種の標高上限は目視で記録し、緯度北限は文献に依った。なおエネルギー量の指標として年平均気温、暖かさの指数(WI)を用いた。
その結果、標高方向の方が同じ年平均気温、WIでも種多様性が高かった。北緯40°付近の夏緑樹林では、標高方向の同じエネルギー量の樹林と比して2/3程度の種数だった。さらに各々の種の上限と北限のエネルギー量の差は、年平均気温で平均1.8℃、WIで17℃・月、上限の方が低く、標高方向の方がエネルギーの少ない標高まで種が分布していた。また風散布種は、重力散布種や鳥散布種と比して上限と北限のエネルギー量の差が大きかった。これは散布距離の短い重力散布種は上昇北上ともに時間がかかること、散布距離の長い鳥散布種は分布上限と北限にほぼ達していることで差が小さいが、散布距離が中程度の風散布種は上限までほぼ達しているが、北限には達してないため差が大きいと考えられた。以上より分散制限が種多様性の緯度勾配に影響しており、その影響程度は種子散布型により異なることを明らかにした。