| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-109
多くの昆虫は野外において捕食寄生を受けている。この宿主―捕食寄生者系について,寄生者は最も個体数の多い昆虫を宿主として利用するように進化する,という仮説が提出されている(Lapchin 2002)。本研究ではこの仮説を検証することを目的に系統・分類,生態,遺伝学で多くの知見が蓄積されているショウジョウバエを対象に,東京近郊の2地点において,キノコ食ショウジョウバエを利用する寄生蜂の宿主選択を調べた。
調査には市販のキノコ(エノキタケ,ツクリタケ,マイタケ,シイタケ,ブナシメジ)を用いた。これらキノコを容器に入れ野外に放置し,1週間後実験室に持ち帰り,キノコ内のショウジョウバエ幼虫を蛹化させた。得られた蛹は種を同定し,その後ハエもしくはハチが羽化すれば種を同定した。調査は南大沢で9回,高尾で4回行った。その結果ショウジョウバエが10種,寄生蜂が9種羽化した。寄生蜂のうち1種は蛹寄生者であった。幼虫寄生者8種のうち6種はショウジョウバエの最優占種であるDrosophila bizonataに寄生しており,仮説が予測するように最優占種をよく利用する傾向が認められた。残りの2種のうち1種はScaptodrosophila coracinaに,もう1種は本来果実食であるD.lutescensに寄生していた。寄生蜂Asobara japonicaは極めて多種のショウジョウバエを宿主として利用していたが,その理由は不明であった。
本結果を北海道・苫小牧における調査結果(Yorozuya 2006)と比較すると,ショウジョウバエでは,Hirtodrosophila属の新鮮なキノコに適応した種が東京近郊では極めて少ない。それにも関わらず,寄生蜂種,特にFigitidaeに属する種が苫小牧では1種に比べ,東京近郊では6種と多かった。