| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-110
クサアリ亜属は旧北区に広く分布し,日本では現在5種が記載されている.ワーカーによる形態分類が非常に難しく,どの種にも同定できない個体や,中間的形態を持つ個体がまれに見つかる.特にクロクサアリL.fujiについては,ヨーロッパ産のL.fuliginosusのシノニムであるとする説や,日本国内に隠蔽種が存在するという説があり,分類が混乱している.
体表炭化水素(CHC)は昆虫の体表にある一連の炭化水素の混合物で,アリではこれを巣仲間認識物質として利用している.CHCの組成は種特異的であることから,分類形質の一つとして利用されている.
本研究では,長野県松本市近郊の約30コロニーからアリのワーカーを採集し,mtDNA,CHCの情報を形態同定結果と比較することでクサアリ亜属の系統関係を検証した.また,mtDNAの解析では,Maruyama(2008) のケアリ属各種のデータも加えて解析を行った.
COI領域871塩基に基づくmtDNA系統樹では,クロクサアリ以外の4種では形態同定結果とmtDNA系統が一致した.一方,クロクサアリは2つの系統(A,B)に分かれ,このうちB系統はL.fuliginosus(ヨーロッパ種)と単系統になった.
GC-MSによるCHCの解析では,5種のアリからそれぞれ異なる組成のCHCが検出され,形態同定結果と一致した.さらに,CHCの組成と組成比を含めたクラスター解析を行った結果,クロクサアリは2つのクラスター(a,b)に分類され,それぞれのクラスターはmtDNA系統樹におけるA,B系統とそれぞれ一致した.
これらの結果から,クロクサアリL.fujiには2つの系統が含まれ,片方はヨーロッパ産L.fulijinosusと近縁な系統であることが明らかになった.CHCの組成と組成比を用いることで,クサアリ亜属の6つの種と系統を識別することができた.