| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-111

系統と形質の分散から熱帯雨林の群集形成を理解する

*片渕正紀, 黒川紘子(東北大・生命), Sylvester Tan (FRC, Malaysia), 中静透(東北大・生命)

近年、遺伝情報が容易に得られるようになったことで、系統解析による生物群集の形成過程の解析が盛んに行われるようになった。それらの研究は系統の類似性から機能形質の類似性を推測し、群集構造を決定する要因を明らかにしようとしている。多くの先行研究で近縁種は類似した形質をもつという仮定があるが、系統関係と機能形質に相関がない例も少なくない。したがって実際の形質情報にもとづいた解析が必要である。系統構造と実際の機能形質を同時に評価することの利点としては、群集形成における形質進化の相対的重要性の理解が進むことがあげられる。

本研究はマレーシア・ランビル国立公園 (LHNP)の52haプロットに生育する1100種以上の樹木の分布から観察された系統と形質の分散を中立なモデルから得られた値と比較することで、群集形成における形質の役割とその形質がどのように生じたのかを明らかにすることを目的とした。またフタバガキ科といった特定のクレードに着目することで、より詳細に樹種の出現パターンと形質の関係を解析した。

その結果、LHNPの系統の分散は中立なモデルから予想される値と変わらなかったが、相対成長速度と最大樹高の分散は小さかった。これらの系統と形質の分散の不一致は、類似した形質を持つ種が類似した環境に分布するという環境フィルタリングの存在と形質進化が群集形成において比較的大きな役割を担っていることを示唆している。フタバガキ科に着目した場合、葉の物理強度、相対成長速度などに環境フィルタリング、最大樹高や個葉面積などいくつかの形質で過分散が検出された。以上の結果をもとに、(1)熱帯樹木の群集形成における形質進化の相対的重要性、(2)フタバガキ科におけるニッチ分化、について議論する。


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