| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-112
機能的冗長とは、ひとつの機能を群集内の複数の種が担っている状態を指す。これまでの研究では、室内実験で種間の機能的冗長が確認されている一方、野外群集では検出されないことが多く、その一般性は議論の最中にある。
海洋における小型無脊椎動物(端脚類、等脚類、アミ類等)の種は、潜在的に多くの機能を有す場合が多く、さらに状況依存的に機能を変化させることができる。例えば、端脚類の1種は濾過食とグレイザーの双方の摂餌方法を有し、状況依存的に摂餌様式を変化させることができる。このような特徴を有する種で構成される群集では、群集内に局所的な種の絶滅が生じて機能の損失が起こったとしても、失った機能はこれまで異なる機能を果たしていた種内個体群の一部によって速やかに補填されるだろう。群集内には高い機能的冗長が生じているため、機能の変動に対して種数の減少の影響が少なく、機能多様性が維持されると考えられる。逆に、機能的冗長が生じていなければ、例え種が潜在的に多くの機能を担えたとしても、何らかの要因によって個々の種が異なる特定の機能のみを担うため、種の絶滅は機能の損失を伴うと考えられる。
本研究では、海草藻場に生息する潜在的に多くの機能を有す小型無脊椎動物を対象に機能的冗長性に関する解析を行い、その有無を検証した。機能的冗長性の有無は、各種の機能的特性に基づいた種間の非類似度から算出した機能的多様性と種数の関係を数種類のモデルを用いて比較することで検討した。その結果、対象とした群集に機能的冗長性は検出されず、群集内では個々の種が異なる機能を担っていることが示唆された。講演では小型無脊椎動物群集の機能的多様性が決定されるプロセスについて、いくつかの仮説を提示する。