| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-126
寄生者は自然界に普遍的に存在するため、それらを含む群集構造や動態、生態系機能の理解は生態学の重要な課題だと指摘されている。演者らは、成熟したハリガネムシ類(類線形虫類)に寄生・行動操作されたカマドウマ・キリギリス類が、晩夏から秋にかけて山地河川に大量に飛び込み、河川の高次捕食者であるサケ科魚類の重要な餌資源になっていることを発見した。ハリガネムシ類が駆動するこのエネルギー補償は、少なくとも紀伊半島の山地河川に普遍的に生じており、イワナ個体群の年間の総摂取エネルギー量のおよそ60%を占めている場合もあった。そのような膨大なエネルギー補償は、魚類のみならず、魚類のトップダウン効果の改変を通して、河川の生物群集や生態系機能にも影響する可能性がある。
そこで演者らは、ハリガネムシ類による宿主の行動操作が河川の生物群集と生態系機能に与える間接的な効果を検証するために、河川に供給される陸生昆虫類をハリガネムシ類の宿主と非宿主に分けて、それぞれの供給量を操作する野外実験を開始した。その結果、宿主と非宿主の供給量の抑制に応じて、アマゴ(サケ科魚類)の成長量の低下、底生生物の群集構造の変化、および河川の生態系機能の変化(藻類現存量の増大・落葉分解速度の低下)が起こることが示唆された。これらの結果をもとに、ハリガネムシ類が森林-河川生態系において果たす役割について考察する。