| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-131

水田における栽培管理の違いが昆虫類・クモ類の生息に及ぼす影響

*浜崎健児,田中幸一,中谷至伸,吉武 啓,田端純(農環研)

近年、安心・安全な農産物に対する関心の高まりを受け、有機農業の推進に関する法律の制定や農地・水・環境保全向上対策の導入など、農薬や化成肥料等の化学資材のみに依存しない栽培への取り組みが進められている。これらは、安心・安全な作物の生産や、環境への負荷軽減を主な目的としているが、農耕地に生息する生物群集に対しても様々な影響を及ぼすと予測される。そこで、環境に配慮した栽培管理が水田に生息する昆虫類・クモ類に及ぼす影響を評価するため、栃木県内の有機水田と慣行水田で調査を行った。

栃木県内4地域(野木町、上三川町、塩谷町、大田原市)に、有機水田と慣行水田をそれぞれ2〜3筆ずつ調査地として設定した。昆虫類・クモ類は、栽培期間中(5〜9月)、約2週間ごとに、スウィーピング法、見取り法、払い落とし法、タモ網を用いた水中すくい取り法によって採集し、種類および個体数を調べた。

害虫や天敵を含む昆虫類は、地域と農法のいずれにおいても種数や個体数に大きな違いが認められなかった。一方、クモ類は、地域間で程度は異なるものの、慣行水田よりも有機水田で種数、個体数ともに多い傾向を示した。また、水生昆虫類は、野木町を除いた地域の有機水田で慣行水田よりも種数、個体数が多く、種数の多い地域では農法間の違いが大きくなる傾向を示した。

以上の結果から、有機栽培はクモ類・水生昆虫類の生息にプラスに働き、その効果は地域や分類群によって異なることが示唆された。水田に生息するクモ類や水生昆虫類の多くは、生活史の一部を水田に依存している。生活史を完結するためには、稲が栽培されていない時期に、生息場所や越冬場所として利用できる他の環境が必要となる。クモ類と水生昆虫類では必要とする環境の条件が異なることから、調査水田周辺の景観構造の違いがクモ類・水生昆虫類の種構成に影響を及ぼしていると考えられた。


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