| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-134
水田水域の生物群集構造や物質循環には、水域内部の生態的相互作用だけでなく、ユスリカ類やゲンゴロウ類のように陸域から侵入する生物も重要な役割を果たすと考えられている。しかしながら、陸域から供給される生物の水田水域への影響を実験的に検証した例は少なく、解明の余地が残されている。本研究では、陸域に由来する生物が水田生態系に与える影響を評価するために、稲田養魚実験水田を用いて、防虫網を張り巡らして動物の侵入を制御しながら、イネの栽培を行った。4×9.9mの水田4筆を直列に配した試験池4面を用いて、防虫網による被覆の有無および捕食者となるフナ類添加の有無の組み合わせにより、4通りの実験区を設定した。肥料と農薬の投与は最小限に留め、配合餌料等によるフナ類への給餌は行わなかった。
ユスリカ類幼虫と貧毛類の個体数およびウキクサ類の被度は、被覆田において有意に低い値を示した。また、水田水中の栄養塩類の濃度および収穫した玄米中のタンパク含量も、被覆田において有意に低い値を示した。被覆田における貧毛類の低い個体数密度は、ウキクサ類や陸生節足動物といった潜在的餌料の供給量不足によって説明することができる。また、被覆田では、分解者の役割を務めるユスリカ類幼虫や貧毛類が十分に存在しないため、有機物の無機化が不活発な状態に置かれ、栄養塩類の蓄積が滞ったと考えられる。被覆田では、ウキクサ類の被度や玄米中のタンパク含量が低い値を示したが、これには肥料成分欠乏の影響が推察される。また、養魚田では、栄養塩類の濃度が有意に高くなる傾向が認められたことから、フナ類は物質循環を促進する役割を果たしていると考えられた。本研究により、陸域に由来する動物の供給は、水田水域の物質循環や生物群集の維持にとって重要であることが示された。