| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-155
近年、シカ類の劇的な増加が過採食による下層植生の衰退を引き起こし、世界各地で問題となっている。我が国においても様々な地域でニホンジカ(Cervus nippon)が増加しており、植物だけでなく、直接的、間接的に食植性昆虫や糞虫、訪花昆虫などにも影響が及んでいる。また、シカによる下層植生の過採食は、土壌浸透能の低下、土壌浸食の活発化を引き起こし、渓流への雨水および土砂流入を促進させることが考えられる。このような流入プロセスの改変は、降雨時の攪乱規模を拡大させることや、河床に土砂を堆積させることで底質を改変し、河床を棲み家とする底生動物群集へ影響を及ぼすと思われる。特に水生昆虫に代表される水生節足動物は、渓流の分解者、一次消費者、被食者として河川生態系機能を担っており、これらへの負の影響は、河川生態系全体の劣化につながる可能性が考えられる。そこで、本研究ではシカの採食が山地源流域における水生昆虫相にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的とした。
京都大学芦生研究林内の冷温帯天然林でシカ排除区、対照区の小流域4つずつを対象地とし、25*25cmサーバーネットを用いて2008年11月〜2009年8月に4回水生生物の採集を行った。
シカを排除した流域では、いずれも対照区に比べて水生節足動物の多様度が高かった。対照区では、細粒な堆積物が河床を高い割合で覆っており、上述のような陸域におけるシカの過採食が斜面水文プロセスの改変に関わり、土砂流出の活発化を通じて水生生物にとっての微生息地を単一化させ、節足動物群集の多様度の低下を引き起こしていると推察された。豊かな下層植生は、水生動物にとってもその多様度の維持に重要な役割を果たしていると思われる。